給与明細をよく見ると、「所得税」という欄がある。毎月しれっと引かれているのに、いくらが正しいのか、なぜその額なのか、説明できる人は意外と少ない。でも所得税の仕組みは、一言でいえば**「引き算のリレー」**だ。ここさえ掴めば、ふるさと納税も医療費控除も住宅ローン控除も、全部同じ地図の上の話になる。

所得税は「引き算のリレー」でできている

所得税は、いきなり収入に税率をかけるわけではない。何度も引き算をしてから、最後に税率をかける。

所得税は「引き算のリレー」

収入
− 給与所得控除(必要経費)
所得
− 所得控除(基礎・社保 など)
課税所得
× 税率(累進)
税額
− 税額控除(住宅ローン など)
納める所得税

「収入」と「所得」は別モノ。税率がかかるのは何度も引いたあと

所得税が決まる5ステップ

流れはこうだ。

  1. 収入 から 必要経費(会社員なら「給与所得控除」)を引く → 所得
  2. 所得 から 所得控除(基礎控除や社会保険料など)を引く → 課税所得
  3. 課税所得税率 をかける → 税額
  4. 税額 から 税額控除(住宅ローン控除など)を引く → 納める所得税

ポイントは、「収入」と「所得」は別モノということ。年収400万円の人がまるまる400万円に課税されるわけではない。給与所得控除でまず一定額が引かれ、そこからさらに各種控除が引かれる。だから実際に税率がかかる金額は、思っているよりずっと小さい。

「所得」は10種類に分けて考える

税金の世界では、稼ぎを10種類に分類する。稼ぎ方によってルールが違うからだ。

所得の種類ざっくり言うと
給与所得会社員・パートの給料
事業所得自営業・フリーランスの商売
雑所得副業・年金・その他
一時所得保険の満期金、懸賞
不動産所得家賃収入
利子・配当所得預金利子、株の配当
譲渡所得株・不動産を売った利益
退職所得退職金
山林所得山林の売却

分類が大事な理由は、課税の仕方が2通りあるから。

  • 総合課税…給与・事業・雑などを全部合算して、まとめて累進税率をかける(メインの方式)
  • 分離課税…退職金・株の売却益・不動産の売却益などは、他と合算せず単独で計算する(雑所得でもFX・先物などは分離)

なぜ分けるのか。退職金や不動産売却は「一生に一度の大金」が一気に入る。これを給与と合算すると累進税率で税金が跳ね上がり、酷なことになる。だから切り離して優遇している、と理解すると腑に落ちる。

所得控除は「税金の対象を減らす」道具

引き算リレーのステップ2、所得から引く「所得控除」。これは課税される金額そのものを小さくする割引券だ。代表選手はこのあたり。

  • 基礎控除…ほぼ誰でも使える。原則58万円(令和7年分〜。2024年分以前は48万円)
  • 社会保険料控除…払った健康保険・年金は全額引ける
  • 配偶者控除(最高38万円)・扶養控除(一般38万円、19〜22歳の特定扶養は63万円)…養う家族がいると引ける
  • 生命保険料控除…保険料に応じて。最高12万円(新契約合計)
  • 医療費控除…年間の医療費が10万円(所得が少ない人は所得の5%)を超えた分(確定申告が必要)

注意:控除額は改正で動く 基礎控除・給与所得控除は令和7年度改正で引き上げられ、いわゆる「103万円の壁」が「160万円の壁」になった。FP試験では法令基準日時点の数値で解くので、使う教材の基準日を確認しよう。

所得控除と税額控除は、効き方がまるで違う

初心者が必ず混乱するのが、所得控除税額控除の違い。名前は似ているが、効くタイミングが決定的に違う。

🔑 ここが見どころ

同じ「10万円の控除」でも効き方が違う

所得控除
税率をかける「前」を減らす
10万円 × 税率5%
−5,000円
税額控除
税額から「直接」引く
10万円 まるごと
−100,000円

税額控除(住宅ローン控除など)のほうが圧倒的に強い

所得控除と税額控除、効き方の違い
  • 所得控除…税率をかける前の金額を減らす。節税効果は「控除額 × その人の税率」。税率5%なら10万円控除で5,000円の減税
  • 税額控除…計算し終わった税額から直接引く。10万円の税額控除なら、まるまる10万円減税

つまり税額控除のほうが圧倒的に強い。この違いは、FP3でも実生活でも超重要だ。

累進課税=階段を上るほど税率が上がる

課税所得が決まったら、いよいよ税率。日本の所得税は超過累進課税で、5%〜45%の7段階

課税所得税率
195万円以下5%
〜330万円10%
〜695万円20%
〜900万円23%
〜1,800万円33%
〜4,000万円40%
4,000万円超45%

税率は5%〜45%の階段(超えた分だけ上がる)

5%〜195万10%〜330万20%〜695万23%〜900万33%〜1800万40%〜4000万45%4000万〜課税所得(万円)→
※段を超えても、全部が上の税率になるのではなく「はみ出した分だけ」上がる

ここで最大の誤解ポイント。「課税所得が330万円を1円でも超えたら、全部10%→20%になる」──これは間違い。正しくは、超えた分だけ高い税率がかかる。課税所得400万円の人なら、195万円までは5%、195〜330万円は10%、330〜400万円の部分だけ20%。全体を20%で計算するわけではない。だから「昇給したら手取りが減る」はほぼ起こらない。

年末調整と確定申告、何が違う?

会社員の所得税は、毎月の給料から多めに天引きされている(源泉徴収)。そのズレを年末に精算するのが年末調整。だいたい12月の給料で「戻ってくる」のはこれだ。ただし、年末調整では扱えないものがある。そういう人は自分で確定申告する。

✅ 年末調整で完了

多くの会社員は、毎月の源泉徴収を年末に精算して終わり。保険料控除や扶養も会社が処理してくれる。

📝 確定申告する(必要・または得)
  • 医療費控除(年10万円超)
  • ふるさと納税(ワンストップ外・6自治体超)
  • 住宅ローン控除の1年目
  • 副業などの所得が20万円超
住宅ローン控除は1年目だけ確定申告、2年目以降は年末調整でOK

確定申告をすると得する人の代表例:

  • 医療費控除を受けたい(年10万円超の医療費)
  • ふるさと納税をした(ワンストップ特例は5自治体まで。6自治体超や他の申告があるとき)
  • 住宅ローン控除の1年目(2年目以降は年末調整でOK)
  • 副業などの所得が20万円超ある(これは「必要」なケース)

「申告=面倒な義務」と思われがちだが、医療費控除やふるさと納税は申告して初めてお金が戻る、むしろ得する手続きだ。

税額控除は"ラスボス"級に効く

締めは住宅ローン控除。これは所得控除ではなく税額控除、つまり計算し終わった税額から直接引ける。年末のローン残高の0.7%(2022年改正以降)が税額からズバッと引かれる。残高3,000万円なら約21万円がまるごと減税。だからマイホームを買った1年目は、面倒でも確定申告する価値が大きい。

FP3で狙われるひっかけ

  • 所得控除 vs 税額控除…「課税所得を減らす」のが所得控除、「税額を直接減らす」のが税額控除。住宅ローン控除は税額控除(頻出)
  • 総合課税 vs 分離課税…退職所得・株の譲渡益などは分離。給与と合算しない
  • 確定申告の要否…医療費控除・ふるさと納税・住宅ローン控除1年目は、年末調整では処理できない

所得税は、正体の見えない天引きではなく、引き算のリレーの結果。地図を持って眺めれば、明細の数字がちゃんと読めるようになる。