「聞こえにくいと気づいたときには、もう戻らない」——騒音性難聴は、進行に気づきにくく、しかも治らないという二重の厄介さを持つ職業性の健康障害だ。衛生管理者試験では、障害の部位・始まる音域・指標の定義という3点に、振動障害のレイノー現象を絡めて出題される。ひっかけの型が完全に固定されている分野なので、ここで一気に潰しておこう。
騒音性難聴は「内耳」の障害——中耳ではない
騒音性難聴は、強い騒音に長期間さらされることで、内耳(蝸牛)にある有毛細胞が障害されて起こる感音難聴だ。音の振動を神経の信号に変える感覚細胞そのものがやられるため、一度低下した聴力の回復は難しい。「適切な治療を受ければ回復が期待できる」は誤りだ。 ひっかけの一丁目一番地は部位の差し替えで、「中耳の耳小骨の障害によって生じる」と書き換えてくる。中耳・耳小骨は音を内耳へ伝える側の部品で、騒音性難聴の障害部位ではない。「騒音性難聴=内耳・有毛細胞」で固定しよう。
初期は4000Hz付近から——だから自覚しにくい
もうひとつの柱が始まる音域だ。聴力低下は、会話音域(おおむね500〜2000Hz)より高い4000Hz付近から始まることが多い。この4000Hz付近の特徴的な落ち込みはc5dipと呼ばれる。 ここから重要な帰結が出る。初期には会話音域の聴力が保たれるため、会話は普通にできてしまい、本人がなかなか気づかない。「初期の段階から会話に支障をきたすため自覚しやすい」は、この特徴の真逆を突いた誤りだ。健康診断の聴力検査でオージオメータにより1000Hzと4000Hzを調べるのは、まさにこの「自覚できない初期の変化」を拾うためである。
音の大きさはdB、変動する騒音は「等価騒音レベル」で
音の大きさ(音圧レベル)はデシベル(dB)で表す。ただし作業場の騒音は一日中一定ではなく、時間とともに大きくなったり小さくなったり変動する。そこで使うのが等価騒音レベル——変動する騒音のエネルギーを一定時間にわたって平均した値で、変動騒音の評価に適した指標だ。「観測された最大の音圧レベルを表す」と定義をすり替えるひっかけがあるが、等価騒音レベルは平均の指標であって最大値ではない。 また、騒音の影響は耳だけにとどまらない。自律神経系や内分泌系への影響(ストレス反応)もあるとされ、これは正しい記述として選択肢に登場する。
対策は「音源→伝播経路→耳」の順
騒音対策は発生源に近い側から考えるのが基本だ。①音源対策(低騒音の設備・工法への変更など)、②伝播経路対策(遮音壁や吸音材、音源から距離をとる配置)、③それでも残る騒音に対する保護具(耳栓・イヤーマフ)。保護具は最後の砦であって、最初の手段ではない——この優先順位の感覚も持っておきたい。
振動障害——「局所」と「全身」を混ぜない
| 区分 | 発生源の例 | 主な障害 |
|---|---|---|
| 局所振動(手・腕に伝わる) | チェーンソー・削岩機などの振動工具 | レイノー現象(白指発作・白ろう病)、末梢神経障害、運動器障害 |
| 全身振動(体全体に伝わる) | フォークリフトなど車両の運転 | 腰痛・脊柱の障害 |
試験の狙いどころは、この表の行の入れ替えだ。「全身振動障害ではレイノー現象がみられる」「局所振動障害の主な症状は腰痛や脊柱の変形」は、どちらも局所と全身を混ぜた誤り。レイノー現象は局所振動による手指の症状で、白ろう病という別名のとおり、発作時に手指が蒼白になる。
「白くなるのは冬」の理屈 レイノー現象の本態は、手指の末梢血管が発作的に収縮すること。引き金は寒冷だ。だから夏季より冬季に発生しやすい。「温暖な環境で血管が拡張して蒼白になる」という選択肢は原理が二重に逆(正しくは寒冷→収縮)。理屈ごと持っておけば、どんな言い換えでも見抜ける。
対策は、防振手袋の使用、連続作業時間の制限、低振動の工具への切り替えなどの組み合わせだ。「防振手袋は効果がなく、作業時間の制限のみが有効」のように対策をひとつに絞り込む記述は誤りになる。
ひっかけ総ざらい
| 出題パターン | 正しい理解 |
|---|---|
| 「騒音性難聴は中耳の耳小骨の障害」 | 内耳(蝸牛)の有毛細胞の障害 |
| 「会話音域から聴力低下が始まる」 | 4000Hz付近(会話音域より高い側)から始まる |
| 「初期から会話に支障が出て自覚しやすい」 | 会話は保たれ、自覚しにくい |
| 「治療すれば聴力は回復する」 | 回復は難しい。だから予防が最重要 |
| 「等価騒音レベル=観測された最大値」 | 変動騒音の平均的なエネルギーを表す指標 |
| 「レイノー現象は全身振動の症状」 | 局所振動の症状。全身振動は腰痛など |
まとめ:「内耳・4000Hz・平均・冬」で入れ替えを見抜く
騒音と振動は、①騒音性難聴=内耳・有毛細胞・治りにくい、②初期は4000Hz(c5dip)だから自覚しにくい、③等価騒音レベル=変動騒音の平均、④レイノー現象=局所振動・手指・冬——この4点の入れ替えを見抜くだけで、ほぼ確実に得点できる。部位と向きを「対」で覚えるのがコツだ。